第480回定期公演 マイスター・シリーズ
鈴木雅明が描く官能と神秘
- TEXT / 渡辺和(音楽ジャーナリスト)
先頃惜しまれつつ世を去った小澤征爾が「アジア人奏者に西洋クラシック音楽の扉を開いたパイオニア」とすれば、鈴木雅明は「アジア人奏者にキリスト教音楽を開いたパイオニア」だろう。自ら古楽アンサンブルを結成、バッハの膨大なカンタータ全曲を欧州レーベルに録音し西洋音楽文化の本質に深く踏み込む仕事っぷりに、今や世界中のオーケストラや古楽団体から引き手数多となっている。
そんな鈴木だが、巨匠となった昨今、己の根っこにあるロマンティシズムを隠そうとしていない。「実は子どもの頃から大好きで」と大管弦楽でチャイコフスキーやラフマニノフを指揮、手兵で北ドイツキリスト者の心情を吐露するブラームスの《ドイツレクイエム》も披露
した。OEKでは、若きブラームスの素朴な素顔をストレートに晒す。作者自身は民謡編曲と信じていたといういピアノ連弾の《ハンガリー舞曲》は大ヒット、オーケストラ編曲も様々作られている。腕っこきOEKのために、鈴木はいかなセレクションを見せてくれよう。
後半の大曲にも驚きだ。先輩マーラーの19世紀末ペシミズムを漢詩に託した《大地の歌》の返し歌のようなツェムリンスキーのオーケストラ歌曲集は、文字通りヴァーグナー以降のロマン派趣味をてんこ盛りにして煮詰めたような音楽。インドの詩人タゴールの言葉に愛のすれ違いを描く巨大管弦楽を、敢えてOEKのサイズに縮小。歌手を表現に専念させる。濃厚な響きの裏に潜む微妙な言葉への配慮が鮮明になる。
鈴木雅明が描く官能と神秘
○指揮:鈴木雅明 ○ソプラノ:安川みく ○バリトン:加耒徹
ブラームス/ハンガリー舞曲集<鈴木雅明セレクション>
ツェムリンスキー(ハイニッシュ編)/抒情交響曲(室内楽オーケストラ版)