第496回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
- TEXT / 寺西肇(音楽ジャーナリスト)
ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」に、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」という王道のカップリングをして、“通俗名曲”などと侮るなかれ。いや、そんなことは、昨年9月の第484回定期公演フィルハーモニー・シリーズでのベートーヴェンを“体感”された方に対しては、きっと杞憂に過ぎないだろう。広上淳一とOEKは今回も、「名曲が名曲たる理由」を、鮮烈なる熱演で知らしめてくれるはずだ。
幅広いレパートリーの中でも、特にベートーヴェンを軸に据え、様々なオーケストラと変幻自在の快演を重ねて来た広上。OEKアーティスティック・リーダーに就任してからも、折に触れて楽聖の作品を取り上げている。今年3月に開かれた、広上にとって所縁の地である神奈川県茅ヶ崎市でのOEK公演も、オール・ベートーヴェン。小編成での気迫のこもった熱演は、関東の音楽ファンをうならせた。
楽聖が30代半ばで完成させた「田園」。「田舎に着いた時の大らかな気分」に始まり、楽しい宴や激しい嵐、自然への感謝が絵画のように綴られてゆく。風景や感情を具に表現する「標題音楽」の先駆けであり、変則的な5楽章構成や、それまで交響楽作品では用いられなかったトロンボーンの使用など、当時としては画期的な新機軸も盛り込まれている。広上とOEKは、このよく知られた傑作から、生まれたてのような、瑞々しい響きを引き出してくれるだろう。
そして、管弦楽による主和音の一打ちを背景に、煌めくカデンツァで幕を開ける「皇帝」。その愛称は、堂々たる楽想に相応しい。今回、そのソリストとして日本デビューを果たすのは、テルアビブ出身のトム・ボロー。イスラエル国内で開かれている全て(!)のピアノ・コンクールを制し、2019年1月にカティア・ブニアティシュヴィリの代役として、イスラエル・フィルとの共演するや、一躍脚光を浴びた逸材だ。目覚ましい活躍を続ける「新時代を担うピアニスト」は、名匠が率いるOEKとの共演によって、どんな“化学反応”を起こすのか。
広上淳一の「田園」。世界の熱視線を浴びるボロー、日本デビューの「皇帝」
〇指揮:広上淳一(OEKアーティスティック・リーダー)
〇ピアノ:トム・ボロー
ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
25歳以下公演前日より半額で予約可