「いしかわ 名匠・能楽鑑賞会」
プロデューサーが見どころを語る
- TEXT / 村上湛 (音楽堂邦楽主幹、明星大学教授)
意義と見どころ
世上の「能楽鑑賞会」には三種類あります。流儀や芸派による定例会。役者の個人催会。外部者のプロデュース公演。前二者は普通ですが「外部プロデュース」は難しい。理由は、誰に頼んで何を出したら良いか、普通はよく分からないから。従って、実質は「役者たちへ丸投げ」の外注公演になることが多いのです。このたび発会する「いしかわ 名匠・能楽鑑賞会」は違います。石川県立音楽堂が「地元・石川県の文化向上のため、舞台芸術として最高の演目と演者を選りすぐって企画する」明確な意志に支えられた外部プロデュース公演です。全国的に稀有な催しと自負しています。
来年度以降もこの理想のもと、みなさんに十分楽しんで頂ける優秀な公演をお届けしたいと思います。
狂言「見物左衛門 深草祭」 野村万作
和泉流では唯一の「一人狂言」として異彩を放つ。コトバと仕方(様式性を伴う演技)によって情景を描き出す変幻自在の独演技術がないと勤まらない。壮年の頃からこれを得意としてきた野村万作が、九十四歳を迎えたいま、円熟を極めた全人格的な至芸を見せてくれるだろう。

野村万作
能「清経 音取」 友枝昭世
世阿弥が創作した名曲の中で、この〈清経〉はベスト3に入る傑作であろう。原典『源平盛衰記』(『平家物語』の異本)に基づきつつも、男女の愛とその不毛を独創した点において、この能の劇的主題は恐ろしいまでに冴え返っている。平清経(?〜一一八三年)は清盛の孫、重盛の三男。没時の官職「左(近衛)中将」は権門貴族の後継者として申し分のない顕職。つまり、その孤心は抜群に高貴である。若いころからこの能を得意としてきた名手・友枝昭世が八十五歳を迎えたいま、透徹した孤心の究極が舞台上に顕れよう。
特殊演出「音取」は笛方最高の秘事。シテの出に際し、十分間にも及ぶ長大な曲節を吹く。清経の孤心の表現であり、描写を超えた詩的情趣の表現である。現代能楽界における「音取」の第一人者、森田流笛方・松田弘之の名技が期待される。

友枝昭世

.jpg)
いしかわ 名匠・能楽鑑賞会
能「清経 音取」
○シテ/友枝昭世(人間国宝)
狂言「見物左衛門 深草祭」
○シテ/野村万作(人間国宝)
解説講演「心づくしの黒髪」
○村上 湛(音楽堂邦楽主幹)
SS席 ¥8,000/S席 ¥7,000
A・車椅子席 ¥6,000
25歳以下特別席 ¥1,000