野村萬斎、音楽を語る
野村萬斎が石川県立音楽堂邦楽監督になってから早5年、芸術監督と名称や役割が広がりつつ「MANSAIボレロ」や「恋は魔術師」など石川・金沢発の創作の発信を続けてきた。今回は音楽とどう親しんできたか、オーケストラとのコラボレーションの際にどう音楽と関わるのかを伺ってみたところ、そこから音楽堂における〝芸術監督〞という役割が垣間見えた。
- TEXT / 渡辺和(音楽ジャーナリスト)
野村萬斎は、狂言師野村万作の長男として生まれ育った。
「姉二人がピアノをやっていて、僕もやりたいと言ったとき、狂言や能と無縁の音感や体の使い方への弊害を危惧した父は、随分反対しました。でもそれをやって困ったことはなかったですね」

文学少女だった母親のおかげで、父の専門と異なる音楽も流れていた。
「母は普段からビートルズやカーペンターズを好んで聴いていました。歌謡曲も全盛で、みんなで聴いていました。中学時代はフォークソングが流行し、ロックバンドやベストヒットUSAも。タワーレコードでしこたまジャケ買いしましたよ、ハードロック、ヘヴィメタルが中心でしたけど。ディープ・パープルとか、バッハの影響を受けていることもあって、意外と感じるものがあります。高中正義さんにも非常に憧れ、同じギターを買い、ロックもやりながらフュージョン系の音楽を随分やりましたね」

若き狂言師は西洋楽典必須の東京藝術大学に進み、シェイクスピアに興味を持ち英国留学。2021年から石川県立音楽堂の邦楽監督、2024年よりアーティスティック・クリエイティブ・ディレクターに就任し、オーケストラ・アンサンブル金沢と向き合う。
「オーケストラとはちょっと違う環境でずっと音に興味を持ってきましたので、クラシックの音圧は僕にとって新鮮なものでした」
音楽を語るとき、萬斎は「音圧」という言葉を重視する。
「邦楽の世界には︑複数の楽器が同時に和音を奏でるときの音圧がない。メロディー楽器は笛しかないですし、打楽器的にリズム主体で吹いている。西洋楽器に通ずる和楽器は笙くらい。基本的には日本の楽器は、和音や音圧がまとわりつくものより、直線的に人に刺さる音の方が多い気がします。邦楽自体が単純な編成ですから、トリッキーに鼓など打たないと動きが出ない。ハードロックやメタル、フュージョンやジャズも聴いたりして、僕の音楽性の中でそのトリッキーな所にはすごく興味がありました」

音楽堂の芸術監督とは、という問いに、監督は正面から答える。
「音楽を2次元とするならば、それを立体にした3次元的な領域を僕が受け持ちます。音楽をひとつの音だけではなく、舞踊、能楽的側面、演劇性など立体的に盛り込んでいく。総合的な見地での石川県立音楽堂における芸術監督と考えております」

勿論、ベースは能の時空だ。
「能舞台という何もない空間で演技をする時に、一番気にするのが時間と空間です。狂言も身体を使いますけど、台詞が7割、動きが3割というぐらい台詞の音楽性を気にしています。音の上げ下げ、音の種類、止め方、伸ばし方含め、細かくキャッチボールをするように会話をしていく。音のあり方をものすごく感じると同時に、体で受け止め発信し、空間を作っていく。ただ音楽を聴くことよりも、時間と空間というイメージが染み付いている。この考え方は、3歳から舞台をやっている感覚と、それ以降に僕が色々に親しみ、楽しみ、憧れてきたものの影響で構成されています。マイケル・ジャクソンもいれば、ベジャール振り付けの《ボレロ》もあります」

光源氏:野村裕基
そうして、芸術監督は金沢で劇場を創る。
「劇場とは、生きている人が生きている人に見せ、生きている実感を思う場所です。悲劇、失恋、コメディー、楽しい音楽、荘厳な音楽、なんであろうが、自分の人生を振り返り、生きててよかったと生を共有するのが劇場の使命。そう思ったときに、僕がオーケストラに対して何かお役に立てることがあるならばやらせていただきたい。もしかしたら、演劇の演出家より相性がいいかな、という気もしてきました(笑)」
音楽堂の舞台から新たな時空が生まれる夢。
「石川・金沢で作ってきた作品が日本全国をまわり、世界に行って評価を得た時に、皆さんにも納得して喜んでもらえる。そういう地域との密着性がベストだとも思っております」
演出・舞:野村萬斎(石川県立音楽堂芸術監督)
指揮:本名徹次
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
ラヴェル「ボレロ」 ほか
ショスタコーヴィチ「森のうた」
語り ほか:野村萬斎(石川県立音楽堂芸術監督)
指揮:山田和樹 テノール:宮里直樹 バス:加藤宏隆
合唱:東京混声合唱団、OEK合唱団、「森のうた」児童合唱団(公募)
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
ベートーヴェン/山本直純“変”曲:交響曲第45番「宿命」
ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森のうた」 日本語版
★劇場キャンペーン 18歳以下 S席無料
劇付随音楽「真夏の夜の夢」
演出・出演:野村萬斎(石川県立音楽堂芸術監督) 指揮:海老原 光
出演:万作の会、琉球舞踊
ソプラノ:石川公美 メゾ・ソプラノ:前澤歌穂
児童合唱:いしかわジュニアオペラアカデミー
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢 ほか
★劇場キャンペーン 18歳以下 S席無料
8/15 10:00発売
