CLOSE-UP PEOPLE 郷古廉 さん インタビュー
色彩豊かでコントラストの強い「鮮烈な時間」
10月5日のリサイタルシリーズに登場する郷古廉。今年の4月、30歳の若さでNHK交響楽団第1コンサートマスターに就任し、オーケストラにソロ、室内楽と精力的な活動を続け、それぞれの舞台で魅せられているファンも多いはず。そんな彼が今回の公演のプログラムを考えるにあたりテーマに掲げたのは「異国の地でインスピレーションを受け、異国で活躍した作曲家」。ファリャやプーランク、ストラヴィンスキー、ラヴェル、武満徹と多彩な作品が並ぶが、プログラムを考えるうえで大きなインスピレーションを与えられたと郷古が語ったのは意外にも画家の名前だった。
郷古「金沢市出身の画家、鴨居玲です。私は2019年に彼をテーマにした舞台に携わり、そこで彼の人生を知りました。鴨居の絵を初めて目の当たりにしたときの、自己の存在に対する危機すら感じられるような強烈な印象は、忘れることはないでしょう。
鴨居は南米やパリ、そしてスペインに旅をし、スペインでは数年間アトリエを構えました。彼の絵から伝わってくる臭気はたしかに、ヨーロッパ南部のそれだと思います。
今回演奏するプログラムは、一見するとフランス的ですが、実はスペインと関係しているものも多く、非常に色彩豊かでコントラストの強い、鮮烈な時間となるのではないかと思います。」
OEKと共演を重ねたホールで初のリサイタル
さて、郷古がこの音楽堂に初登場したのは2011年。当時高校2年生だった彼が井上道義(OEK桂冠指揮者)の招きでオーケストラ・アンサンブル金沢(以後、OEK)と初共演。東日本大震災直後のことだった。
郷古「石川には個人的に多くの思い出があります。演奏会だけでなく旅行の思い出もあり、親しみを感じています。私は宮城県出身なのですが、東日本大震災の直後、OEKとの公演のために金沢に来た時のことは今でも鮮明に覚えています。震災を経験した身として、能登半島における現状には心を痛めています。」

コンサートホールではOEKと共に演奏を重ねてきたが、リサイタルは初めて。いま注目の実力派ピアニスト、三浦謙司との共演も期待が高まる。
郷古「素晴らしい響きをもつ音楽堂コンサートホールで演奏できることを楽しみにしております。三浦さんとは以前から共演を熱望していましたが、この度初めて形になったことが心から嬉しいです。我々のあいだにどのような反応が起こるのかぜひ楽しみにしていて下さい!」
〇ファリャ/7つのスペイン民謡
〇プーランク/ソナタ
〇武満徹/妖精の距離、ほか
郷古 廉(ごうこ・すなお)
2013年ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクール優勝ならびに聴衆賞・現代曲賞を受賞。
現在、国内外で最も注目されている若手ヴァイオリニストのひとりである。
1993年、宮城県多賀城市生まれ。
2006年第11回ユーディ・メニューイン青少年国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門第1位(史上最年少優勝)。
2007年12月のデビュー以来、各地のオーケストラと共演。
共演指揮者にはゲルハルト・ボッセ、フランソワ=グザヴィエ・ロト、秋山和慶、井上道義、尾高忠明、下野竜也、山田和樹各氏などがいる。
2017年より3年かけてベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏するシリーズにも取り組んだ。
これまでに勅使河原真実、ゲルハルト・ボッセ、辰巳明子、パヴェル・ヴェルニコフの各氏に師事。
国内外の音楽祭でジャン=ジャック・カントロフ、アナ・チュマチェンコの各氏のマスタークラスを受ける。
使用楽器は1682年製アントニオ・ストラディヴァリ(Banat)。
個人の所有者の厚意により貸与される。
2019年第29回出光音楽賞受賞。
NHK交響楽団ゲスト・コンサートマスターを経て、2024年4月より第1コンサートマスターに就任。