「舞踊の会」の魅力とみどころ
- TEXT / 村上湛 (音楽堂邦楽主幹、明星大学教授)
昨年たいへんなご好評を頂いた「舞踊の会」。今回は押し詰まって歳暮の開催となりました。
石川県立音楽堂ならではの重厚華麗な「年忘れ」をお楽しみ頂きたく思います。
金沢発信の意欲的な〈傀儡師〉
歌舞伎舞踊で市井の風俗のさまざまを描写した作品が数ある中、〈傀儡師〉とは古代以来の
伝統を受け継ぐ「人形つかい」のこと。軽妙洒脱な芸尽くしを見せる難曲で、これをこのたび宗家を襲名された西川扇藏さんが踊ります。特筆すべきは地方(伴奏音楽)の清元。錚々たる男性演者に交じり、唄・浄瑠璃の名手である御当地ひがし茶屋街・小千代さんが特に立テ(主唱者)を勤めます。金沢ならではの意欲的な配役です。
能に取材した名曲〈本行 四季の山姥〉
「加賀宝生」の長い歴史を背景に今も能楽文化が盛んな金沢。世阿弥の書いた最高傑作に能〈山姥〉があり、それを地歌(京・大坂で伝習された三味線歌曲)に移した舞踊作品が〈本行 四季の山姥〉です。「本行」とは、「日本舞踊の取材源としての能」を意味します。
地方の菊央雄司さんは今が芸盛り。地歌は弾き歌いが原則ですので、三弦と歌どちらも力量を要します。立方(舞踊手)は宗家・山村友五郎さん。この曲は山村流で特に重んじられる大作で、装束と作リ物(舞台装置)も能をイメージした古格を保ちます。
古典秘曲の新たな舞踊化〈長恨歌曲〉
山田流箏曲には流祖・山田検校が創作した「四ツ物」と呼ばれる秘曲4曲があります。古代中国、玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を歌う〈長恨歌曲〉はその源ともいえる一大傑作。もともと演奏専門の作品ですが、このたびは音楽堂邦楽主幹・村上湛の長年の懸案を実現し、人間国宝の名手・山勢松韻さんの地方という豪華な布陣のもと、吾妻徳穂さんの楊貴妃、花柳寿楽さんの方士(道教の修道士)、練達のご両人に新たに振付も願って、江戸時代の古曲を現代の創作舞踊として初めて世に問います。
音楽堂 舞踊の会
〈清元「傀儡師(かいらいし)〉
立方/西川扇藏
浄瑠璃/小千代(ひがし芸妓)、清元志寿子太夫、清元一太夫
三味線/清元志寿造、清元雄二朗、清元美一郎
〈地歌「本行 四季の山姥(しきのやまんば)」〉
立方/山村友五郎
地歌/菊央雄司
〈箏曲「長恨歌曲(ちょうごんかのきょく)」(舞踊新作)〉
立方/吾妻徳穂(楊貴妃)
立方/花柳寿楽(方 士)
箏/山勢松韻(人間国宝)、山勢麻衣子、奥山 勢
三絃/山登松和
笛/福原 徹
囃子/藤舎呂英社中