第488回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
- TEXT / 戸部亮(音楽評論家)
プログラム、オーケストラの状態に基づき演奏会前に聴き手は合理的範囲でコンサートの出来ばえがある程度想定がついていることが少なくない。繰り返し聞いている名曲、普段聴いている演奏団体になおさらだ。
従って、想定する期待値を超えるかどうかは指揮者とソリストに収斂されてくる。期待値を超えるかどうかを決する変数たる指揮者とソリスト。今回は期待値を超える可能性を秘めた変数だ。しかも単なる可能性にとどまらない。彼らがこれまでの各所における演奏会で高パフォーマンスを示しているのだ。聴き手が彼らの演奏を通じて、納得感を得られる再現性も担保されている期待の才能なのだ。
まず変数の一つであるヴァイオリニスト。最近急速に聴衆の支持を高める金川真弓が登場する。金川のヴァイオリンは音程の安定感など粗削りのところがないわけではない。しかし金川のヴァイオリンを一聴すると、多くの聴衆が彼女に魅了される。それはなぜか。自分の表現のための音色づくりや表現解釈にテクニックを溶け込ませられているからだ。シューマン最晩年の心境が複雑に投影された「ヴァイオリン協奏曲」で、彼女の知性が反映される演奏を期待したい。
もう一つの変数、エリアス・グランディも今、着実に実績を積み重ねている指揮者。2025年からは札幌交響楽団の首席指揮者に就任予定だ。ドイツの歌劇場で力をつけてきた彼だが、横方向への流れがよい音楽づくりは一辺倒にならず、弦をベースにした構築的な音楽造形を作る指揮者だ。ブラームス「交響曲第4番」は彼の腕を確認するうってつけの曲である。
○指揮:エリアス・グランディ
○ヴァイオリン:金川真弓
ウェーバー/《魔弾の射手》序曲
シューマン/ヴァイオリン協奏曲
ブラームス/交響曲 第4番