第475回定期公演 フィルハーモニー・シリーズ
躍動のヘンデル&モーツァルト
- TEXT / 渡辺和(音楽ジャーナリスト)
四分の一年にいろいろなことがありすぎた2024年、新春の喜びを届けてくれる筈だった鬼才オノフリが、ようやく春も盛りの金沢に戻ってくる。真ん中が膨れたバロック弓を手に、顎当てのないヴァイオリンを肩に乗せた指揮者が舞台のメインに据えたのは、弦楽器が最も輝かしいニ長調の響き。その周りには、艶やかな変ロ長調、屈託ないト長調、堂々たるハ長調などなど、明るい色彩の音のパレットばかりをこれでもかと並べ、心の憂いを吹き飛ばさんとする勢いである。
まずはヘンデルの適度に重厚な序曲に始まり、大バッハよりひとまわり若いナポリのオペラ作家レオの譜面を持ち出しヴァイオリン祭り。協奏曲とはいえパガニーニやメンデルスゾーンのそれとは些か異なる、指揮者までもが楽器を抱え4人の楽人が合奏から出たり入ったり、典雅にして刺激的な音の饗宴だ。管楽器好きとすれば、まだまだちょっと物足りないかも。そんな気持ちも、ヘンデルがテームズ河での王様の船遊びを盛り上げた「水上の音楽」の豪快なトランペットやホルンの雄叫びで、一気にヒートアップだ。
春の祭りを締め括るのは、真打ちモーツァルト。ジングルベルがチンチンと鳴り響くドイツ舞曲集の橇遊び描写はちょっと季節外れになったかもしれないけれど、ハフナー家の結婚式で披露された巨大な式典伴奏音楽からピックアップされた5楽章は、天才アマデウスがサービス精神旺盛に繰り出す堅苦しさ皆無の祝祭の極み。
躍動のヘンデル&モーツァルト
○指揮、ヴァイオリン:エンリコ・オノフリ
ヘンデル/序曲 変ロ長調 レオ/4つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調
ヘンデル/「水上の音楽」第2組曲、第3組曲(初演版)
モーツァルト/3つのドイツ舞曲 K.605 モーツァルト/交響曲 ニ長調 K.250