沖澤とOEKの美質が反映されたオネゲルは必聴
- TEXT / 戸部亮(音楽評論家)
沖澤のどかは今や日本人指揮者で最も活躍している指揮者の一人となった。指揮者の登竜門、2018年第18回東京国際音楽コンクール、2019年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝して加速度を増していったのは周知のとおりであるが、その前に沖澤の力を買っていた団体があった。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)がその一つであったことは今や誇っていい事実だ。沖澤は2011~12年にOEK指揮研究員として在籍。成長への足固めをしていった。
指揮者の特徴を評する時、音色の色彩感や温度感を用いることがある。カラフルな音、ひんやりとした音、暖色ある音などが代表例。沖澤に適用するならば、端正でとても均衡のとれた音楽づくりが特徴と言えようか。声部それぞれがすっきりとしており、とても聞き取りやすい。これが見通しがよいとか構築感があるという沖澤の指揮評へつながる。
したがって、今回OEK定期公演で取り上げるプロコフィエフ《古典交響曲》とオネゲル「交響曲第4番《バーゼルの喜び》」は沖澤の美質、よさが確認できる作品と言えるだろう。《古典交響曲》は古くから指揮者とオーケストラのコンビネーションを恐ろしいほど露にするリトマス試験紙的な曲。同曲を楽しみにする人は多いだろうが、筆者はプロコフィエフ以上にオネゲルを推したい。
オネゲルの交響曲と言えば「交響曲第3番《典礼風》」が定番。同曲以外は演奏機会が頻繁にあるとは言えない。そんな中で沖澤は2024年に京都市交響楽団と「交響曲第5番《3つのレ》」を取り上げ、今回はOEKと「交響曲第4番」を演奏する。人間の謡、民謡を織り込み、すっきりとしたわかりやすい曲の雰囲気。それは同曲を委嘱した20世紀最大の音楽パトロンであったパウル・ザッハーが慈しみ、いかにも喜びそうな佳作だ。沖澤とOEKの美質を大いに曲に反映させてほしい。そして本拠地のみならず、東京の聴き手にもきっとオネゲルの交響曲の真価を伝道してくれるに違いない。
なお牛田智大によるモーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」は特筆しなくても誰しもが期待する聴きどころであることは言うまでもない。
◯プロコフィエフ/古典交響曲5
◯モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番
◯オネゲル/交響曲 第4番 「バーゼルの喜び」
・25歳以下公演前日より半額で予約可
・託児サービスあり