和洋の響Ⅴ~能舞とオーケストラ
池辺晋一郎 インタビュー
- TEXT / KADENZA編集部
邦楽と洋楽、そして能舞が組み合わさる公演「和洋の響」。邦楽ホールとコンサートホールが両立する石川県立音楽堂ならではの企画で、作品は若手作曲家を対象に公募、和楽器だけでなく能舞と合わせることが可能な作品を発表するところに他に類を見ない独自性があります。今回は第1回より審査委員長・公演監修を務める池辺晋一郎 石川県立音楽堂エグゼクティブ・ミュージック・ディレクターにお話を伺いました。

―来年の2月、和洋の響は第5回を迎えます。これまでを振り返ってみていかがですか。
これまではどういうわけか、邦楽と洋楽の組み合わせの面白さをエフェクティブに捉えて何が起こりう
るかというようなことを探求するような傾向の作品が多かったんです。今回選ばれた向井響さんの作品は、今までそうじゃなかったわけではないけど、いわゆるシリアスな現代音楽に正面から取り組んだ音楽になりましたね。
向井さんの作品は楽譜を見ると丹念に書かれています。慣れないジャンルに手を染めたというわけではなく、よく楽器を知っていて書いてるなという感じがします。
―日本の作曲家が邦楽や和楽器に造詣が深いことはやはり必要なものですか。
作曲家の立場で言うと、日本の作曲家が日本の楽器を扱うことは宿命なんです。そのような作品を書くのは苦手だなんて禁句と言っていいほどで、当たり前のように書かなければならないんですよ。
かつて若い頃にアジア太平洋作曲家会議に日本を代表して参加したとき、ベトナムの作曲家が「ベトナムの箏はベトナムの言葉」だって面白いこと言っていた。喋る言葉のイントネーションと同じことがお箏で起きるということを聞いてね。それぞれの国の楽器と言葉は非常に深く関わるものだと納得せざる
を得なかったんです。向井さんの年齢で今この作品を書けたことは彼にとって非常に大きな意味があることだったんだと彼の立場になって考えますね。
―今回、指揮者の飯森範親さんが審査から演奏まで関わられていますね。
飯森さんはかつての岩城宏之さんと同じように現代音楽の初演魔なんです。一体今まで何曲初演しただろうって言ってるぐらいで、現代音楽に対する解釈や読譜力、演奏についてのノウハウっていうのを十分に知ってる指揮者です。
―ほかのプログラムは「マ・メール・ロワ」など組曲が選ばれました。
邦楽とシンフォニーは合わないですね。ヨーロッパの音楽は絶対音楽が優位と言われてきましたが、日本の音楽に絶対音楽はないんです。必ず標題があって季節や花の描写とか、木々の移ろいを音楽に託すというアプローチ。だから物語が背景にある組曲を選びました。洋楽と邦楽が正反対の道を歩んできたからこそ、どう組み合わせるのかが聞く側としては面白いわけで、いろんな視座から楽しみが内包されたコンサートになると思います。


(シテ方宝生流能楽師)



監修・案内役:池辺晋一郎
指揮:飯森範親
能舞:髙橋憲正(シテ方宝生流能楽師)
能舞監修:村上 湛(石川県立音楽堂邦楽主幹)
踊り・演出・振付:堀内將平(K-BALLET TOKYOプリンシパル)
筝:山野安珠美
向井響/「水の反映Ⅲ」 ~十三絃とオーケストラのための~
※新曲初演(2024年度和洋の響作品募集 優秀作品)
ミヨー/フランス組曲
ラヴェル/組曲「クープランの墓」、「マ・メール・ロワ」