第495回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
- TEXT / 寺西肇/音楽ジャーナリスト
馴染み薄い曲のタイトルが並んでいるからといって、よもや敬遠など、なされませぬように。足を運ばれたなら、必ずや極上の体験ができること、お約束できよう。2人のミューズとOEKが描き出す、陰影に富んだ“音の絵画”の数々。終演後にホールを出た瞬間、目にする日常の風景すら、全く違った色彩を帯びるかもしれない。
ニル・ヴェンディッティは、古典から現代に至る幅広いレパートリーを武器に、各国の一線楽団と共演を重ねる気鋭の女性指揮者。ピアニストで作曲家のファジル・サイとは、同じイタリア系トルコ人で親交が深く、彼の新作の初演も手掛けている。一方、ラトビア・リガ出身のクセーニャ・シドロワは、クラシック・アコーディオンの第一人者。彼女が紡ぐ、深い精神性を帯びた音色は、世界中の聴衆を魅了している。
ステージの幕開けを飾るレスピーギの「ボッティチェリの3枚の絵」は、ルネッサンスの名匠が描いた、有名なフレスコ画の三連作に材を得た。シンプルな楽器編成ながら、豪奢で奥深いサウンドを引き出すあたり、まさに「オーケストレーションの魔術師」の面目躍如。極彩色の音画には、きっと耳を奪われるはず。
そして、アルゼンチン・タンゴを芸術の域にまで高めた立役者ピアソラが書いた、タンゴの主役バンドネオン(ボタン式アコーディオン)のための協奏曲。濃密なロマンティシズムに満たされた、さながら大人の夜の光景だ。かたや、サイの「3つのバラード」は、セピア色の世界。元々はピアノ独奏作品だが、今回はアコーディオンと弦楽合奏で披露される。両作品とも、シドロワの切ない音色が琴線を揺らす。
フランス海軍士官でもあったイベールが、自作の劇付随音楽から編んだ「ディヴェルティスマン」は、さながら、彼が日常生活や、寄港先で目にした光景だ。時に別の作曲家の楽曲のパロディも交えつつ、自在かつ軽妙に活写されてゆく4枚の素描。皆さんの帰路の足取りも、きっと軽くなるだろう。
色彩と陰影のショーケース。コンサートはエンターテインメントだ!
〇指揮:ニル・ヴェンディッティ
〇アコーディオン:クセーニャ・シドロワ
レスピーギ/ボッティチェリの3枚の絵
ピアソラ/バンドネオン協奏曲 「アコンカグア」(アコーディオン版)
サイ/3つのバラード
イベール/室内管弦楽のためのディヴェルティスマン
25歳以下公演前日より半額で予約可