石川県立音楽堂
オーケストラアンサンブル金沢

「邦楽と舞踊の会」の魅力と見どころ

毎年恒例「邦楽と舞踊の会」残暑の時季の開催となりましたが、今回も石川県立音楽堂でなければ実現しない豪華な番組で皆さまのご来場をお待ち申します。

  • TEXT / 村上 湛(音楽堂邦楽主幹)

【邦楽の魅力】
毎々申し上げますように、日本舞踊は立方(たちかた)(舞踊手)だけでは成り立ちません。優れた(じ)(かた)(した)(かた)(絃楽と声楽の演奏+助演の囃子方)によるすばらしい音楽が不可欠です。

●長唄「老松」
世阿弥の作った能の名曲に基づき、寿命長遠と家内繁栄を祝福する長唄の名曲〈老松〉は文政3年(1820年)初演。江戸歌舞伎に不可欠の劇場音楽として発展した長唄(江戸長唄)の系譜とは一線を画し、富豪の注文による特製曲として生まれた経緯から「猥雑な芝居から独立した、上品な家庭音楽」として長唄の一側面を拓いた記念碑的な作品でもあります。

●長唄「座敷舞道成寺」
そうした長唄本来の劇場音楽としての性格を最も顕著に示す名曲〈京鹿子娘道成寺〉は宝暦3年 (1753年)初演。歌舞伎芝居における女形舞踊曲の最高峰として屹立する大作です。この〈娘道成寺〉の音楽をそっくりそのまま、歌舞伎舞踊とはまったく技法の異なる上方舞の地方として用いた驚異の創作が〈座敷舞道成寺〉。演題は吉村流四世家元・吉村雄輝(1923~98年)の命名と伝えられます。

●長唄「君が代松竹梅」
いっぽう、「上品な家庭音楽」としての長唄音楽は江戸末期以降も隆盛を誇ります。同趣向の〈君が代松竹梅〉は天保14年(1843年)初演。詞章は松竹梅のめでたさに能〈羽衣〉〈井筒〉の面影を加え、高雅にして華麗な作曲が施されています。

●常磐津「将門」
歌舞伎舞踊の中でドラマ性が最も前面に出た名作〈忍夜恋曲者〉俗称〈将門〉は、「歌う」長唄とは異なり「語る」浄瑠璃・常磐津節の代表作。天保7年(1836年)江戸・市村座で歌舞伎芝居〈(よに)善知鳥(うとう)相馬(そうま)(のふる)殿(ごしょ)〉の最終場面として初演されました。皇位簒奪を志して果たせず敗死した革命家・平将門の娘、瀧夜叉姫が、得意の妖術を尽くして艶麗な遊女に化け、朝廷から派遣された追捕の勇士・大宅太郎光圀を手玉に取る、幻想怪奇の一大傑作です。

【多彩な演者に多彩な味わい】
●尾上菊紫郎
衣装を着けず化粧も濃くしない「素踊り」は舞踊手の「素の姿」がそのまま出ますから、難しいと同時に、その人の芸の真味が堪能できます。尾上菊紫郎は今や尾上流の重鎮ですが、その「重鎮」の名が良い意味で似合わないほど若々しく艶やかな芸の持ち主。先年、私は〈山姥〉の名演に驚嘆したことがあり、その偉大なる品格を本日の〈老松〉でも存分に示してくれることと思います。

●吉村古ゆう
先師・吉村雄輝の晩年、舞台の後見といえば必ず門弟・吉村古ゆうでした。孫と子ほど世代は隔たるにもかかわらず、佇まいから身のこなしまで文字どおり「形、影、相和す」といった風情で、「後ろから見たら、どちらが誰か分からなかった」とは、文化勲章・人間国宝の箏曲家、山勢松韻さんの直談。抜群の技術と清濁あわせ呑む懐の深い芸をこの上もない品位を保ったまま舞台上に具現化した名人・雄輝の厳しい直伝を受けた今回の〈座敷舞道成寺〉に、全国の見巧者の目が集まります。

●金沢三茶屋街芸妓
ひがし・にし・主計町「三廓」連合で囃子入りの長唄演奏「素囃子」は、既に金沢名物と言っても過言ではありません。偉大なキャリアを誇る小千代姐さんを立テ唄(主唄者)据え、金沢芸妓衆の日ごろの技芸をご堪能頂きます。

●藤間蘭黄
〈将門〉の振付には何種類かあり、うち、これを最大の当たり狂言の一つとした亡き中村歌右衛門が終生守ったのは、厳格な「代地」藤間藤子の振リでした。今回はその名手・藤子の孫にあたる藤間蘭黄の光圀による、もちろん「代地」の振リの〈将門〉です。

●中村時藏
対する女形の大役・瀧夜叉姫は、先ごろ六代目を襲名した中村時藏が初役で勤め、これは今年の梨園の大きな話題でしょう。古風な至芸で知られた曽祖父・三代目以来、父・萬壽も得意としたこの難役が今回どのような初花を開くか。今から楽しみでなりません。

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