天沼裕子インタビュー
―「美しき魔笛」はこれまでも再演を重ねてこられた作品。今回の公演でなにか新たな要素はございますか?
恋に堕ちた王子や、死を以て平安を望む王女。復讐に執着する女王と、敵対するザラストロの権力誇示。これら対立するテーマの欠片を、愛すべきパパゲーノと作曲家自身が拾い繋いでいく構成は、これまでと同じ。今回は、和的モンティ・パイソンというか、かなりコメディの要素が膨らみました。
―昨年の「少年オルフェ」と同様、小中学生に向けたコンサートとして「歌芝居」を選ばれた理由は?
歌芝居形式とは文字通り、歌あり、芝居ありです。オペラの筋を音楽だけで紡ぎ出していくと膨大な時間を要します。しかし、セリフが入れば、内容が凝縮され、わかりやすくなります。歌芝居とは要するに、双方のいいとこどりです。モーツァルトがもしあと数年生きていたら、もう一作、歌芝居を書いていただろうと想像します。
―子どもたちに向けた作品を多く上演してこられただけでなく、後進の指導にも長年あたられています。今の若い世代に対して変化を感じられた点はございますか。
この質問には、多くの回答が生まれ、さらに回答が分岐していくと思われますので、敢えて一点のみ申し上げますと、今の若い世代への「外圧」が強くなった感があります。達成までの道のりやコスパを理由に、今の若い世代は、やりたいことの選択や継続に、早期決断を迫られるケースが多くなっているのでは。社会があるべき姿は、個性を見守り、支えていくことだと思います。「二つの罪がある。一つは、自分の才能を発揮しないこと、もう一つは他人の才能を邪魔すること」といいます。この二つ目の罪を、社会が犯してはならないでしょう。
―映像作品を早送りしながらみる人が少なくない世の中ですが、だからこそ舞台芸術の重要性が問われるように思います。舞台からどういうものを子どもたちに体験してほしいと思われますか。
それは、ズバリ、「間」です。舞台上の音楽や芝居における「間」は、描写しようのない、言語化が非常に難しい無音のエネルギーです。実際、瞬き程度の瞬時のことなのですが、身体がふわっと浮くような不思議な感覚が生まれます。その瞬間は、上演中、随所に現れるものではないので、是非、その瞬間をキャッチして、考えたり、味わってほしいと思うのです。数か月、よい後味を楽しめます。

天沼裕子プロデュース
アマデウスが語る美しき魔笛
○構成:天沼裕子
○演出:天沼裕子、武井雷俊
○出演:
アマデウス:村松恒矢(バリトン・俳優)
タミーノ:寺尾貴裕(テノール)
パパゲーノ:仲田尋一(バリトン)
ザラストロ:目黒知史(バス)
夜の女王・他:三箇二千夏(ソプラノ)
パミーナ・他:斉藤真歩(ソプラノ)
アンサンブル・ピアノ:松本隆彦
モーツァルト/オペラ「魔笛」