光 HIKARI
変化する「光」を舞台に 珠洲の自然、人に思いはせ
この企画が立ち上がったとき、中村壱太郎さんから「この人と舞台を制作したい」とご提案くださったのが美術作家・中島伽耶子さんでした。
中村さんは珠洲にある中島さんの作品「あかるい家」を訪れ、中島さんとともに奥能登を歩きました。
この体験から新たな舞台が生まれます。今回初めて舞台制作に携わる中島さんにお話を伺いました。
- TEXT / 本江亜珠佳
このたび、歌舞伎俳優の中村壱太郎さんと舞踊「あかるい家」でコラボレーションさせていただくことになりました。
「あかるい家」は、もとは2021年の「奥能登国際芸術祭2020+」に寄せた作品です。珠洲市正院町の珪藻土工場の事務所だった空き家をまるまる使わせていただき、壁面や天井に無数の穴をあけて透明のアクリルを差し込むことで、昼は部屋に太陽の光を取り込み、夜は照明が外へと漏れだします。
当時、珠洲に滞在しながら制作したので、空き家の大家さんをはじめとした地域の方々とすごく仲良くさせていただきました。



中村壱太郎と珠洲を歩く
その後、能登半島地震が発生しました。2カ月に1度のペースで能登に通っていますが、ボランティアというより、友人、知人の顔を見にいき、お手伝いできることがあればする、という程度のことで…。そんな時、壱太郎さんから今回のコラボのお誘いがあり、最初は驚きましたが、うれしく光栄でした。
今年6月には壱太郎さんと珠洲でお会いしました。地震後も何とか倒壊しなかった「あかるい家」はもちろん、私がお世話になった現地の人に会っていただいたり、私が好きな場所を紹介したり。壱太郎さんがとても丁寧に見てくださったのが印象的でした。


新たな舞台「あかるい家」
とはいえ、舞台づくりは初めての経験です。壱太郎さんからは「舞台美術というより、美術作家として作品をつくるつもりで参加してください」と言っていただき、日本舞踊に新しいものを取り入れたいという今回のコラボの意義を受け止めました。
公演は「光」がテーマです。珠洲で制作した「あかるい家」のように、舞台上のたくさんの穴から光が漏れでて、どんどん変化していくようにしたいです。光の粒の集まりが、星空や雨粒、蛍などいろんなふうに見えればいいなと思っていて、私にとってその一つが、微生物が重なってできた珪藻土、命が積み重なった珠洲の地のイメージです。
自然と共生しながら、生き生きと過ごしている珠洲の人々にも思いをはせられる舞台になればうれしいですね。いつもは私が能登の方に元気をいただいていますので。
壱太郎さんの舞踊と融合することで、どんな「光」が生まれるのか、私も楽しみです。

歌舞伎俳優 中村壱太郎が誘う
邦楽とクラシック音楽の世界
光 -HIKARI-
出演者
中村壱太郎(立方)
中村翫政(立方)
杵屋巳三郎(長唄)
今藤長龍郎(三味線)
福原寛瑞(笛)
見目萌(太鼓)
彌勒忠史(カウンターテナー)
曽根麻矢子(チェンバロ)
徳丸吉彦(監修) ほか
舞踊 長唄「月」
トーク 中島伽耶子☓中村壱太郎
舞踊「あかるい家」
クープラン/恋のうぐいす
ヘンデル/オンブラ・マイ・フ
ダウランド/流れよ、わが涙
ダウランド/晴れても曇っても
武満徹/小さな空
舞踊「越後獅子協奏曲」
PROFILE
中島伽耶子(なかしまかやこ)
1990年京都生まれ。
2020年に東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。
物事を隔てる境界や壁を使い、空間と作品とが一体となる大規模なインスタレーション作品を展開している。
主な展覧会に、「あ、共感とかじゃなくて。」東京都現代美術館(2023)、「TOKYO BIENNALE 2023」(2023)、
第15回Shiseido art egg 中島伽耶子展「Hedgehogs」(2021)、「奥能登国際芸術祭2020+」(2021)、「瀬戸内国際芸術祭2016」(2016)など。