第494回定期公演マイスター・シリーズ
- TEXT / 戸部亮(音楽評論家)
時代が進み、人間が日進月歩していくと仕事も趣味も考える要素が増えて複雑化していく。考えるべき要素が増えていけばいくほど、一つのカテゴリーだったものが、次第に枝葉化していき、分節化していく。そしてそれぞれが個別分野で専門化されていく。
音楽界も作曲家、指揮者、楽器奏者、それぞれが専門化しているのが一般的だ。そんな中で現代の巨匠ハインツ・ホリガーはそれぞれの分野で一流。ただ時代を遡ると、バーンスタイン、マーラー、ベートーヴェン、モーツァルトと作曲家、演奏家としても当世で一級の評価を勝ち得るのが音楽家としてのロールモデルであった。
今風でいうと二刀流と言われるが、歴史的にみるとマルチな才能はクラシック音楽の伝統だ。その古きよき伝統を受け継ぐ現代の音楽家がイェルク・ヴィトマンだ。しかもホリガーのようにそれぞれの分野で一級の評価を受ける稀有な存在だ。
しかもヴィトマンはモーツァルトやベートーヴェンのように管弦楽曲、協奏曲、弦楽四重奏曲、声楽を伴った舞台作品といったいわゆる過去と大作曲家をなぞるような創作活動を続けている。だからこそヴィトマンは現代音楽界の期待を一身に担う存在足り得ている。
定期的にOEKに客演しているヴィトマン。今回は2023年の続編とも言うべきメンデルスゾーンと自作のプログラム。プログラミング自体、前回からの連続性あるストーリーを成立させるところにヴィトマンらしさ、OEKらしさがある。
そう、このここでしか体験できないもの。それこそが価値なのだ。価値を創出しつづけることは特別であり続けること、その土地でしか味わえない体験が味わえることだ。日本で音楽の中心地とみなされる東京でもこういうプログラミングでの演奏会はなかなかお目にかからない。この演奏会はOEKがOEKたることを象徴する辺境かもしれないが、世界の最先端、最も創造的で文化的な経験ができる特別な演奏会だ。
作曲家ヴィトマンの世界。声の本質に迫るマクファデン登場。
指揮:イェルク・ヴィトマン
ソプラノ:クラロン・マクファデン
ヴァイオリン:アビゲイル・ヤング(OEK第1コンサートマスター)
オーボエ:橋爪惠梨香(OEKオーボエ奏者)
◯メンデルスゾーン/弦楽のための交響曲 第13番 ハ短調「交響的断章」
◯ヴィトマン/メンデルスゾーンの結婚行進曲によるパラフレーズ
◯ヴィトマン/フーガの試み(ソプラノ、オーボエと室内オーケストラ版)
◯メンデルスゾーン /交響曲 第5番 ニ長調「宗教改革」op.107
SS席6,000円/S席5,000円/A席4,000円/ビスタ席3,000円/スターライト席1,000円/車椅子席5,000円